縄文人は、日本列島の豊かな森と海の恵みによる環境の中で、“定住する狩猟採集民”という、世界的に見てもめずらしい生活文化を営んでいた民族でした。また、縄文時代のストーン・サークルの遺跡や、独創的な形状をした土器や土偶などの造形物が数多く発見されていることから、縄文人は自然と同調した深い精神世界、卓越した感性、そして高度な技術をもっていたと考られています。

そして、その縄文文化がもっとも栄えていたのが、日本列島の東北地方でした。

この岩手でも、多くの地域で縄文時代の遺跡や遺物が見つかっており、奥地の山間や海岸では、縄文時代から変わらぬ風景を今も感じることができます。

「精霊、隠された太古の神々」

縄文や蝦夷の人々は、自然に宿る精霊を崇拝しておりました。山や岩などの自然物、風などの自然現象そのものが、すべて畏怖の対象でした。

その世界では、人も石も草木も動物も、万物は同じ霊魂（アニマ）をもっており、精神の次元で通じ合っていました。

やがて、ヤマト王権の国家統一により、日本全土には、仏教と神道の新しい神々が広がって行きました。縄文や蝦夷の崇拝していた精霊は、ヤマト王権によって悪しき神として滅ぼされ、あるいは形を変えて取り込まれ、やがて忘れ去られてしまいました。

この岩手には、縄文や蝦夷の崇拝していた精霊の痕跡が、仏教や神道との融合を繰り返しながらも、まだわずかに残っています。アラハバキという名で伝わる石の神、セオリツヒメという名で伝わる水の女神、そのほかに名もなき神々が、山奥や僻地に静かに眠っています。